雇用する側・上司の方へ
「どう接すればいいか分からない」という声をよく聞きます。答えは、接し方より情報の渡し方です。多くの調整は費用がほとんどかからず、他の従業員にも効きます。
かんたんにいうと
- 特別な接し方は必要ありません。
- 指示の出し方を変えるだけで、成果が変わります。
- 会社が使える公的な支援があります。
まず押さえたい前提
特別な接し方は要りません
「気を遣わなければ」と身構える必要はありません。必要なのは態度の変更ではなく、情報の渡し方の変更です。
能力の問題ではないことが多い
指示が伝わらない、締め切りを落とす、報告が上がってこない。これらは能力不足に見えますが、渡され方が合っていないだけであることがよくあります。
同じ人が、指示を文書にしただけで評価が変わる、というのは珍しい話ではありません。
法律上の位置づけ
- 障害者雇用促進法 — 雇用の分野における差別の禁止と、合理的配慮の提供義務
- 障害者差別解消法 — 2024年4月1日から、民間事業者にも合理的配慮の提供が義務
「過重な負担」にあたる場合は断れますが、その場合も代替案を一緒に検討することが求められます。 「できません」で終わらせないことが要点です。
今日から変えられること
以下はいずれも費用がほとんどかからず、他の従業員にとっても働きやすくなる調整です。
指示の出し方
| いま | 変える |
|---|---|
| 「適当にやっといて」 | 「◯◯の形式で、△日までに、□までやってください」 |
| 口頭だけ | 口頭+チャットで一言残す |
| まとめて5件依頼 | 優先順位を付けて渡す。「1番はこれです」 |
| 「なるべく早く」 | 具体的な日時を言う |
| 完了条件が曖昧 | 「どうなったら終わりか」を言葉にする |
情報の共有
- 予定変更は決まる前でも一報を入れる
- 会議の議題を事前に共有する
- 業務の手順を文書に残す(属人化の解消にもなります)
環境
- 席の位置を変える(壁際、人の動線から外す)
- イヤーマフ・ノイズキャンセリングイヤホンの使用を認める
- 集中できる場所を用意する(会議室の時間貸しでも可)
進め方
- 短い面談を定期的に(月1回15分でも、問題が大きくなる前に拾えます)
- 中間で1度見る機会を作る(手戻りが減ります)
- 担当範囲を明確にする
やらないほうがよいこと
| 避けたいこと | 理由 |
|---|---|
| 本人の同意なく周囲に伝える | 開示の範囲は本人が決めることです。人事情報の取り扱いにも関わります |
| 「みんなできているよ」と言う | 比較は改善につながらず、自信だけを削ります |
| 「気をつけて」で終わらせる | 注意で解決するなら既に解決しています。仕組みを一緒に考えてください |
| 良かれと思って仕事を全部外す | 役割がなくなることは、本人にとって配慮ではありません |
| その場で急に方針を変える | 変更は事前に伝えるだけで負荷が大きく下がります |
会社が使える公的な支援
支援を受けられるのは本人だけではありません。 会社側が使える仕組みがあります。
ジョブコーチ(職場適応援助者)
支援者が実際に職場に来て、本人と会社の双方に助言します。 作業の教え方、指示の出し方、周囲への説明の仕方まで具体的に相談できます。
窓口は地域障害者職業センター↗(各都道府県)です。
各種の助成金
障害者を雇い入れる場合や、職場環境を整備する場合に使える助成金の制度があります。内容と要件は改定されるため、ハローワークまたは高齢・障害・求職者雇用支援機構にご確認ください。
ハローワークの障害者専門窓口
採用の相談から、雇用後の定着支援まで相談できます。
障害者就業・生活支援センター
在職者の相談にも対応しています。生活面の課題が仕事に影響している場合、会社だけで抱えずに済みます。
採用の場面で
法定雇用率
| 時期 | 民間企業の法定雇用率 | 対象となる事業主 |
|---|---|---|
| 2024年4月〜 | 2.5% | 常用労働者40.0人以上 |
| 2026年7月〜 | 2.7% | 常用労働者37.5人以上 |
対象となる企業の範囲が広がっています。これまで対象外だった規模の会社が新たに対象になるため、早めの準備が必要です。
面接で見るとよいこと
- 「どんな環境だと力を発揮できますか」と直接聞く
- 職場を見てもらう(本人が判断できる材料を渡す)
- 苦手なことを聞いたら、それを避けられる配置があるかを考える
定着のために
採用より定着のほうが難しい、というのが実務上の共通認識です。効くのは大がかりな制度ではなく、相談できる相手が1人決まっていることです。
「困ったら誰に言えばいいか」がはっきりしているだけで、離職はかなり防げます。
最後に
発達障害のある人が職場で力を発揮できるかどうかは、本人の努力より環境の設計で決まる部分が大きくあります。
そして環境を設計できるのは、本人ではなく管理する側です。ここに書いたことのうち1つでも試してみてください。多くは今日から、費用なしで始められます。