発達のとびら 発達障害の情報を、ひとつの入口から

発達障害の歴史

いまの理解は、はじめからあったものではありません。母親のせいだとされた時代がありました。その誤りがどう正されてきたかを知ることには、いまも意味があります。

かんたんにいうと

  • 発達障害の考え方は、時代とともに変わってきました。
  • むかしは「親のせい」と言われた時期がありました。
  • いまは、そうではないことがわかっています。

なぜ歴史を知るのか

発達障害の歴史には、間違いが正されてきた記録が含まれています。

かつては「親の育て方が原因」とされ、多くの母親が責められました。その説が誤りだと分かるまでに、数十年かかっています。

いま「発達障害が治る」とうたう情報に接したとき、この歴史を知っていると判断の助けになります。根拠のない説が広く信じられることは、実際に起きたからです。

世界の年表

見つけられていく時代(1800年代〜1930年代)

できごと
1800年ごろフランスで発見された少年(アヴェロンの野生児、ヴィクトール)に対し、医師イタールが教育を試みる。障害のある子どもへの教育的なはたらきかけの先駆けとされる
1902年イギリスの小児科医ジョージ・スティルが、知的な遅れがないのに衝動的で落ち着きのない子どもたちの症例を報告。ADHDの記述の始まりとされる
1911年スイスの精神科医ブロイラーが、統合失調症の症状のひとつを表すことばとして「autism(自閉)」を作る。※現在のASDとは意味が異なる

自閉症が記述される(1940年代)

できごと
1943年アメリカのレオ・カナーが11人の子どもの症例を報告。「早期幼児自閉症」として、それまでとは異なる状態像を記述した
1944年オーストリアのハンス・アスペルガーが、ことばの遅れがない一群の子どもについて論文を発表。ドイツ語だったため長く英語圏に知られなかった

母親のせいだとされた時代(1950年代〜1960年代)

自閉症の原因を親の愛情不足に求める説が広まりました。感情的に冷たい母親という意味で「冷蔵庫マザー(refrigerator mother)」という言い方までされ、母親が治療の対象とされることがありました。

できごと
1964年バーナード・リムランドが著書で母親原因説を正面から否定し、生物学的な要因を主張。潮目が変わる転換点になった
1960年代後半〜親の会が各国で組織され、当事者家族の立場からの発信が始まる

診断の枠組みが整う(1980年代〜)

できごと
1980年DSM-III で「幼児自閉症」が独立した診断として初めて掲載される。それまで統合失調症の一種と扱われていた枠組みから切り離された
1981年イギリスのローナ・ウィングが、アスペルガーの論文を英語圏に紹介。「アスペルガー症候群」という呼び名が広まる。自閉症を連続体(スペクトラム)としてとらえる考え方も彼女の仕事による
1987年DSM-III-R で「自閉性障害」。ADHDという名称もこの版で定着
1994年DSM-IV で「アスペルガー障害」が独立した診断名として掲載される
2013年DSM-5 で、自閉性障害・アスペルガー障害などが「自閉スペクトラム症」に統合される。同時に、ASDとADHDを併記して診断できるようになった
2019年ICD-11 がWHO総会で承認(2022年発効)。ICDでも「自閉スペクトラム症」に統合
2022年DSM-5-TR(テキスト改訂版)

診断名がどう変わったかは診断名の変遷で詳しく扱います。

日本の年表

日本の制度史は日本の制度の歴史で扱いますが、要点だけ挙げます。

できごと
2004年発達障害者支援法が成立(2005年4月施行)。「発達障害」が法律上の用語になった
2007年特殊教育から特別支援教育へ制度が転換
2011年障害者基本法の改正で、発達障害が障害者の定義に明記される
2016年発達障害者支援法の改正。障害者差別解消法の施行
2024年改正障害者差別解消法の施行。民間事業者にも合理的配慮の提供が義務

歴史から読み取れること

1. 「新しい病気が増えた」のではない

診断される人が増えたのは、診断の枠組みが整い、知られるようになったからです。カナーが記述する以前から、同じ特性を持つ人はいました。

2. 分類は道具であって、事実そのものではない

「アスペルガー症候群」という呼び名が広まったのは1981年、DSM-IVに「アスペルガー障害」が載ったのが1994年、DSM-5で自閉スペクトラム症に統合されたのが2013年です。人が変わったわけではなく、分け方と呼び方が変わっただけです。

診断名を絶対的なものとして受け取りすぎないほうがよい、という教訓でもあります。

3. 誤った説は、権威を伴って広まる

冷蔵庫マザー説は、医学界の中で唱えられ、専門家によって広められました。「専門家が言っている」ことは、正しさの保証にはなりません。

いま「発達障害が治る」とうたわれる方法についても、同じ目で見る必要があります。判断に迷うときは主治医か発達障害者支援センターにご相談ください。

出典

最終更新 執筆 sin(ADHDとASDの兄弟を育てています。)